月 (ソネット)
Giton

いつも何も言わずに、静かに見つめているあなた、どんなに
暗い夜でも、窓を開けばそこにいるあなた、近づいて見ればあざだらけ
なのに、冴えわたった夜空の下で妖しく耀くあなた、人目避ける旅人の
足もと照らし出し。昼の明かりに堪えぬ俺は、あなたの時間が待ち遠しい――

恋人たちは、あなたの時間が待ち遠しい:あなたが見ていなければ、
交わすことのできなかった愛がある;あなたの翼の陰で、そっと
確かめ合った愛がある。人目に隠れて肩寄せ合い、誓い合う2本の腕は、
不幸のなかでこそ幸せ;あなたのかぼそい明かりの下でこそ憩う。

いにしえの人は眉に喩えた三っか月、夜半には重なり眠る恋人たちの
弓張月、峨々たる稜線から、宵闇を確かめるように、顔を出す満月、
そして、十六夜、立待ち、居待ち、臥待ち――逢瀬の刻は遅れ、あなたは痩せ細る。

しかし、つごもり、あなたのいない夜は、遠ざけられた悲しみに、
恋人たちは、気も狂わんばかり、潮の満ち干も極大に達し、涙が旅人を
溺れさせる;闇夜こそ、愛の深さを知る時、不可視の引力に捉えられ、己れの空しさに出会う時――


自由詩 月 (ソネット) Copyright Giton 2009-01-29 01:38:25
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