雪の中に埋めたのは
木屋 亞万

憂鬱なビーフシチューの
だらけた牛肉を飲み込みながら
死にかけのパンを頬張る
乾いた生地がネチネチと
転げまわる口の中
手の指の皮はすべて冷え
もう二度と温まることはない

全身の筋肉の繊維を
数本抜き取られた脱力感に
暖炉の火だけがパチパチと
憎たらしい喝采を続ける

スプーンを持つ手には
凍った雪を掘った感触が残る
ドアの隣に掛けてあるスコップから
ずっと水が滴っている

「俺は悪くない」
パンがネチリと唾を含む
口に残るシチューの匂いが
血の気配を帯びた気がして
不意に嘔吐いてしまう

風が激しく扉を叩く
怒りと恨みが交互に訪ねてくる
口でしか息ができない
いつでも泣けるように目が乾いている
「俺は何もしていない」

スプーンを扉に投げつける
細長い悲鳴が地面に落ちて
暖炉の丸太がガランと崩れた
「俺じゃない」
雪の中に埋めたのは
「俺じゃないんだ」

シチューは自分で作った
パンも自分で買ってきた
「俺じゃない」と呟くも
貴方じゃないわという人はいない


自由詩 雪の中に埋めたのは Copyright 木屋 亞万 2009-01-19 23:56:22
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