陽子の命令するままに動いていたら
わたしは14歳のときに死んでいただろう
光子は文句だけは言うけれど助けてくれないし
ほかの子は側で黙って見ているだけだった

あの時わたしはなぜ死ななかった ....
レンガ造りの建物立ち並ぶ前で身を寄せ合う車列の上を裸馬が闊歩していく

車の天井は踏まれるごとにひび割れ、蜘蛛の巣が広がる、金属を擦り合わせた甲高い音響

魔女が窓ガラスを割る呪文を唱え、音に ....
切れ切れの落ち葉は切ない
道の脇に沈みこんで
自分がどこから来てどこに行くのか
道行く人にかさかさと問いかける
けれど誰もその葉が何の葉であるかを知らない

女は三輪車に乗る子どもを道で遊 ....
信号が立っています
青い光を放っています
不自然なほど続く直線に、等間隔に立っています
そこを一台の車が走ります
おもちゃみたいな赤い車です
後ろに引いてネジを巻かなくても走ります
辺りは ....
甲子園に行くためには名投手が必要である
バッテリーの才能がずば抜けていれば
守備や打撃にさして強みが無くても勝ち残っていける
二人の青年が呉琉紺駄高校に入学し、万年予選敗退だった野球部で
その ....
動物がほとんどいなくて、すきっ歯な林だけがあるような
そんな植物だけが林立する場所にも、空き缶は捨てられていた
その缶を水が徹底的に錆び付かせ、風が土に埋葬した
泥に溺れそうな缶詰の、淵が顔を覗 ....
結局
要するに
つまりお前は
人を好きになれない
のではなくて
人を好きなお前を
好きになれない

根本的に
無意識的に
核心的な部分において
お前は自分のことが嫌いだ
人を好 ....
北行列車は、かれこれ数年間は立ち往生している
車掌はいつも困り顔で客室に説明をしに来る
私はそれを聞かずに窓の外を見ている
雪が窓に張り付くとふわりとした光を持つ
「蛍の光、窓の雪」と歌ってみ ....
村が息を吹き返すと
私は息苦しくなりますと
一人の少女が伝えた

議長である村長と
ひそひそと話をした後の
商店街のリーダーの視線と
校長先生の視線が交わる

君はもういいからと言わ ....
憂鬱なビーフシチューの
だらけた牛肉を飲み込みながら
死にかけのパンを頬張る
乾いた生地がネチネチと
転げまわる口の中
手の指の皮はすべて冷え
もう二度と温まることはない

全身の筋肉 ....
薄氷が張った空の
水色の向こうに何があるのか
私にはわからないけれど
朝、目的地の自転車置き場で
ふと、立ち止まり見上げていた
空には、肉眼で確認できないほど
かすかな穴が開いていた
誰 ....
床々黒くリノリウム
歩けばかすかに沈む気配
二人寄り添う足跡が
床を静かに押していく
朝一番のアクアリウム

雪々降るのは冬の常
信号ごとに傘を揺すれば
二つの山で雪崩も起きる
立ち ....
雨の降る日、電車が遅れて
まだアナウンスを聞いていないあなたは
いつものように向かいのホームにいる
今日はそのホームじゃないと
隣であなたの友人が叫ぶ

あなたはこちらを見た
雨の向こう ....
レンガのようなブラウンジャケットを着た老人が厳かに部屋へと入ってくる。眼鏡のレンズはトンボのようだ。頭は禿げて芋虫のようなフォルムをしている。彼が私たちの試験官だ。

「トウコウデハシケンチュウノ ....
小さいながら我が家の庭には
大きな松の木が植えられていた
初夏の頃には松ぼっくりをつけるその木は
祖父によるとヒマラヤスギという種類だそうで
松ぼっくりのできる杉ということが
当時の私にはと ....
俺のドラゴンボールが火を噴くぜと
若い男は股間を指差して叫ぶ
彼はセーラームーンを求めていたのかもしれない
三日月ではなく満月の戦士

いつかはクレヨンのような子どもを産んでほしい
短くな ....
砂丘から砂が流れて来たら
それは夜の始まり

私は眠る準備を始める
天井を通る赤い水流を
電灯から白い汁として引き込む
煤けた電球の先から、光りながら
とめどなく溢れる白い液は
黄色い ....
数十年もの間、腐れ縁の切れない幼なじみがいる
だから数十年間、年賀状を出し合っていることになる
干からびたミミズのような字で
「さかたあけおくんへ」と書いた記憶がある
親同士の付き合いも古くか ....
恋は夢のようだ
行き場のない電車は
どこから来たのか
窓が濡れている
扉から未確認人間の群れ
黒いリキッドとして流出
その中をさりげなく
歩いてくる恋は
目の前を通り過ぎ
風景と同じ ....
水水しい空が強すぎて
太陽は白い影
図に乗った青空は
本を落としてゆく
知らぬ間に空は本棚

透き通った色をしていたのに
地面に落ちると褐色か
黒色の本ばかりになる
着地に失敗した本 ....
頭が九つある竜の川の河口を抜けて
地図で見れば尾びれのような東尋坊に
ガス欠間近のバイクを止める
どこかの船越に追い詰められた犯人が
たどりつきそうな見事な崖だ
ドラマではほとんどの犯人が泣 ....
親指を蜜柑に差し込むと
右手から全身に流れてゆくメロディがある
皮から弾けた汁は、血液をオレンジ色に染めていき
弾ける微炭酸の気泡が、心臓の凝りをほぐしていく

蜜柑の房の皮を八重歯で裂くと ....
冬の朝というのは
どうしてこうも透き通っているのでしょうか
そしてその残酷なほどに低温な誓いを
そ知らぬ顔で踏み荒らす通勤電車の暖房

冬に身を寄せ合うのは
厳しい冬をみんなで乗り越えるた ....
地に足が着いたまま
一番空に近づいたキリンでも
見上げる空ははるかに遠い

空を舞うように
自由に飛びまわる鳥たちでも
見上げる空は遥か彼方だ

いかなる動物も空に到達することはできな ....
彼女の手の平が押し出す白濁が
指の隙間から流れていく
少し力を込めた腕の強張りに
持ち上がる頬が顔立ちを整えていく
束ねてもらえなかった前髪が
目の鋭さを扇情的に遮っては見せ付ける

も ....
中学時代の恩師が猛烈に車にひかれたと聞いて、慌てて病院へ駆けつけた
3階のナースステーションを抜けて、突き当たりにある個室に先生の名があった
ノックして扉を開けると、そこには一台の車があった
長 ....
スクランブル交差点で
ゴツゴツした緑色の肌の大男が
巨大な鉈で素振りをしている
それは腰の回転を利用した
あの野球特有のスイングで
彼の腕が伸びきる頃に鉈はブンと鳴く

彼の周りにあった ....
夕暮れが迫っていた
そして女は急いでいた
夜ノ森が始まってしまう、まもなく
日が沈む、まだ田園地帯から出られない

カラスがダーツのように空を飛び
夕日のど真ん中へ突き刺さる
雲は水面を ....
オーブントースターのパンが焼き終わった音
こんがり焼けた小麦の生地の香ばしい匂い
コーヒーの出涸らしが出す香りも良い
あるいは
葱を刻んだり、魚を焼いたりする音
出汁と味噌の香りに焼きたての ....
アーモンドチョコレートを一粒
光沢のある爪先ほどの球体
歯が食い込んでいく表層、とろけて
わずかに硬いアーモンドは
乾いているのでカリッと割れる
砕けた粒が乾燥地帯の匂いを呼んで
アーモン ....
木屋 亞万(531)
タイトル カテゴリ Point 日付
ミクロ分析自由詩1*09/2/8 23:11
腐った童話自由詩0*09/2/8 2:22
葉女自由詩3*09/2/6 3:12
赤い車自由詩1*09/2/4 22:40
透明宣言自由詩3*09/2/2 1:55
ひとのきかん自由詩7*09/1/30 1:29
芋虫のまま死にたい自由詩2*09/1/29 4:29
夜光列車[group]自由詩4*09/1/24 18:38
itai自由詩0*09/1/23 0:49
雪の中に埋めたのは自由詩0*09/1/19 23:56
 さしすせそが言えなくて自由詩4*09/1/17 2:36
雪々自由詩1*09/1/14 0:41
ダイヤ乱夢[group]自由詩2*09/1/13 2:41
試験中の情事散文(批評 ...3*09/1/12 2:21
六角の箱庭[group]自由詩5*09/1/9 1:03
イタリ自由詩2*09/1/7 3:42
やさしく眠る/急いで起きる自由詩2*09/1/5 1:17
あけおめ自由詩6*09/1/1 2:55
惷く[group]自由詩1*08/12/30 22:38
空本[group]自由詩0*08/12/29 1:55
R305自由詩3*08/12/26 0:49
スウィートミュージックは、時々、熱くなる。自由詩1*08/12/22 0:15
綺麗なお姉さんは好きですよ自由詩2*08/12/21 0:32
空以外の空自由詩2*08/12/19 2:15
ヨトギ自由詩5*08/12/17 1:15
段差のない家自由詩3*08/12/16 1:16
ピーマンショック自由詩1*08/12/12 22:05
「夜ノ森ってどこにあるか知ってる?」と、貴方は悪戯っぽく自由詩2*08/12/6 2:22
ファミリー・コンピュータ自由詩1*08/12/3 1:10
巴旦杏洋菓子自由詩1*08/12/2 22:53

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