ダイヤ乱夢
木屋 亞万

雨の降る日、電車が遅れて
まだアナウンスを聞いていないあなたは
いつものように向かいのホームにいる
今日はそのホームじゃないと
隣であなたの友人が叫ぶ

あなたはこちらを見た
雨の向こう側
あなたが友人を見る視界に
私は入ることができただろうか

屋根があるところには
雨は降らないと思っていた幼少期
好きな人ができたら
いつか知り合えると信じていた青年期

あなたは向かいの階段に消え
手前の階段から現れる
こちらに歩み寄り
友達と合流する

妙な執着は迷惑だろうから、私は
通学の時間を合わせるだけ、にした

耳元のイヤホンでは音楽が空回り
雨は止む気配がなく、電車は来ない
電光掲示板の隅の赤い数字が増えていく

名前を呼ぼうとしても
声を聞こうとしても
あなたは遠い
私は知らないのだ
名前も声も

夢の中で私の知っているあなたが
何度も何度も現れる
それが決まって駅なのは
私が電車よりも遅れていて
どこかでとまったままだから


生きろと死ぬなの違いなんて考えたことがなかったのに
生きろと歌う音楽が私の背中を拳で叩く
私が復旧する頃にあなたは
まだ駅にいるのだろうか


自由詩 ダイヤ乱夢 Copyright 木屋 亞万 2009-01-13 02:41:53
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象徴は雨