アンフレグランスド
aidanico

メイプルソープの例の髑髏の写真を見て脳みそが後ろに転がってから前転倒立をいとも綺麗に極めてくれた頃の感覚を、僕は忘れない。携帯の音声認識に眉と静脈を顰めながらも必死にマイクに向かって叫んだことも、興味本位で朱色のマニキュアを姉の鏡台から引っ張り出した時のあのツンと鼻を刺激する薬品の匂いや、鮮やかな朱と対比されて浮き上がった自分の手の白さも。友人から勧められてそこそこ可愛い女の子と付き合ったけど、手を握ろうとも思えなかった、その代りに、その友人に恋人が出来たときに激しく動揺して、ベッドの中で布団に籠もって一ヶ月近く自慰に耽ったこと、その凡てが、僕の忘れがたい青春の一ページであり、また修正ペンなんかでは消すことの出来ない僕の一部なんだ。男性用の香水の瓶は決って四角くて、ラベルのシンプルなものが多くてうんざりしているのだけれど、部屋にばら撒いた香りじゃなく瓶だけ持ち運ぶのには、クロエのシックなリボンだろうがアナスイのカーヴィーなボトルだって関係が無い(あくまで主張をしたくなければ、だけれど)。青314や緑405の表示よりも、ヴァニラ・アイスのような黄105のほうが魅力的な男性だって履いて捨てるほどいる。それでもそれが作られないのは、虹色の香水が発明されないのと恐らく同じ理由だろう。月が綺麗で、それに照らされているあなたの足の脛が綺麗で、それらが作り出す翳が矢張り綺麗だと思えるのは、僕の頭のてっぺんからつま先までが香りのつけられていない唯一のものだと信じたいのです。きっと、


自由詩 アンフレグランスド Copyright aidanico 2009-01-09 23:32:13
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