ヨゼミ
ねなぎ

蝉の声がした

蝉さえ鳴かなければ
静かな午後に
少し涼しい風が
カーテンを揺らしていた

席は三つ
高校の三階の
準備室の埃っぽい匂いと
積み上げられた椅子
圧迫する教材

目の前の
少し太り目の
禿げが
嫌そうな顔で
睨んでいる

横の友人は
ただ窓の外を見たまま
遠い目をして
受け流している

僕は焦って
怯えたまま
蝉の声が
胃の腑にまで
染み付いて
重く
平衡感覚を
失っていた

現実感の無いまま
歪んでるみたいに
どこかで見たように
グランドでは
陸上部が
声を上げている

なんでテストを受けなかったんだ
と言う
間抜けのような質問に
僕は
ただひたすらに
すみませんと
下を向いた

汗でべたべた
していた

隣の友達が
ただ
どうでもよかったから

平然と言った

僕は冷えて
固まった
バカと言う言葉が
喉から張り付いて
出て来ず
金魚みたいに
パクパクとしていた

担任は唖然としたと言うか
呆れてしまったように
そうかと言った

蝉が煩かった

じゃあ、お前は帰りなさい
来なくて良いよ
と担任が言うよりも
早く
友人は席を立ち
どうでもいいよ
と言って
出て行った

で、お前はどうする
と聞かれて
僕は反射的に
すみません

下を向いた


その後
友人は停学になり
僕は
独りでテストを受けた
そいつは
学校を辞め
あまり
遊ばなくなり
僕は一浪で
大学に入った頃には
もう合わなくなっていた


夜なのに
蝉が鳴いている

少し涼しい風が吹いた

残業を押し付けられて
独り
会社のデスクに座る

どうでもいいよと
呟いてみる


未詩・独白 ヨゼミ Copyright ねなぎ 2004-08-12 19:52:33
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