偉大なる詩人の歌
atsuchan69

冬枯れの木立のつづく泥濘の道、
小さな水溜りに爽やかな青空を映して
名も知れぬ誰かの、
虚しく残した懸命な足跡を
突然、山の麓から軋む音ともに登ってきた
四角張った黄色い一匹の獣が、
鋼鉄の履帯で靴底の標(しるべ)を
いとも簡単に踏みつぶした

この俺は、
とうに死にかけていたが
あいにく首を吊る
つよく逞しい枝がない

現場監督の話では
この場所にビルを建てるのだという
俺は濃紺のカストロコートを着て
皆と外れて、かなり遅い昼飯を食べた

保温のため新聞紙で包んだ弁当は、
鶏の唐揚げと、厚焼き玉子と、筑前煮と
エビフライと、蒲鉾と、黒豆と、
志波漬けと、キャベツの千切りと、スパゲティが
白飯の上でメチャクチャに暴れ、みごと散ってしまった
豪華、かつ悲惨で笑えないやつ。

あまりの寒さのために
ふたたび涙が凍る
吐息が、白く煙って
咽び泣く声が、たちまち凍りついて
☆・・・・△×○!
素直に言葉にならない

不愉快な昼飯のあと
可愛いチンポもしなだれて
建設現場の深い穴ぼこめがけ、
喜んでオシッコする、、、

じょおおおおおおおおおお )))

黄色いしょうべんの真っ最中に
現場監督が走ってくる、
か、か、かいちょーォう
おぉ〜お電話ですっ。
蒸気を漏らしながら、
手垢まみれの携帯を手渡されると、
声の主は副社長からだった

――まもなく社長がそちらへ・・・・

なんでまたこんな山ん中に
意味もなくビルなど建てるのか?

ちゃんと説明するようにと
俺は、年収二億円の副社長に訊いた。
しかも、この俺にはいっさい何も
全く知らされていないではないか!
本当に、俺はさあ )))
直ぐにでも、死にたい気分なんだぞ

――いえ、けしてビルなんかじゃございません

しどろもどろの口調で
なんと副社長は、
詩人でもあるこの俺の、
「特別記念館」を
密かに建設中なのだとぬかした

やがて不快な爆音がこだまし、
社長の乗ったヘリが上空に見えだした。
それはロシア製の大型ヘリコプターで
誰がいつ何処で鋳造したのか?
偉大なる詩人である
――この俺の、
イルクーツクのレーニン像にも勝る
とてつもなく巨大な、鈍く光る銅像を吊り下げていた
やおら私は薄笑いを浮かべ、
透明な鼻水を垂らして
あー、アホー・・・・と、呟くほかなかった

だがしかし、
淡い雲の切れ間に射した
かよわい陽光とともに、
ハレルヤ! 神の御声を聴いた

 ((( 此処を詩人たちの住いとしなさい )))

ふと気がつくと、
大勢のゴスペル隊・・・・
丘を越えて歌いながらやって来る
ベレー帽とスモックの黒人たち

狂ったように身体を揺らして
彼らは口々に、
無名詩人たちの名を叫ぶ
――×××ちゃん、
――××ちゃん・・・・

な、なんだ、お前たち!

ゴスペル隊が叫ぶ、
――タコヤーキ! と。
すると何故だか知らないが、
突き出した竹竿に提灯ぶら下げた
薄汚い屋台がそこに在った

ニット帽をかぶったオッちゃんが
狐色したタコ焼きを素早くひっくり返し、
空からは社長が、さかんに青海苔を降らした
見よ、これこそ電撃的レイブパーティー
紅ショウガと蛸のコミュニオン。
スピリチュアル・エクスタシーとでも言うべき、
鰹節も踊る「ハレ」と「ケ」の融合・・・・
マヨネーズ&泥ソースの祝祭だ!

いつしか有翼の天使たちに導かれ、
輸送ヘリコプターMi‐26とともに
茜雲たなびく夕暮れの空に滲むかのように
此処から未来へと危うく架かった、
七色の虹橋に犇めくゴスペル隊が叫ぶ。
――温かいポイント、くださーい

山のカラスたちが鳴く、
アホー、アホーと






自由詩 偉大なる詩人の歌 Copyright atsuchan69 2008-12-25 22:56:22
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