星の岬
yo-yo

ほとんど水平に近い角度で
やっとその星をとらえたことがありました
あと三日で見えなくなるという百武彗星
あれはアトランタオリンピックの年でした
宇宙にいくつも弧を描きながら
あなたの天体望遠鏡は
星の年輪を数えているのだと言いました
昼も夜も
降りつもる星の歳月
あれから星霜という言葉も知りました
わたしの丸い宇宙も
白い霜に覆われています
あなたは今も
星を追いかけるひとですか
さいごの尾を引きながら
海に落ちていった光の軌跡を
わたしは今も探してしまいます
北限の珊瑚と熱帯魚がまどろんでいるあたり
貝殻が一面に打ち上げられた海岸線を
ひたすら岬へ向かって走るのです
車のウインドウを少しだけ下げれば
シトラス文旦の風が聞こえる
星と霜が降り積もる
かつて地の果て人の果てだったところ
岬の洞窟が海にひらいている
(心ニ観ズルニ、明星口ニ入リ)
星を知った偉いお坊さんのようにもなれず
砕け散った真昼の星がまばゆくて
ただ鯨の海をさまようばかり
やがて深い午後を曳航して
空と海がひとつになれば
ふたたび闇を裂く
奇跡の星が見えるでしょうか







自由詩 星の岬 Copyright yo-yo 2008-12-22 06:11:41
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