「夜ノ森ってどこにあるか知ってる?」と、貴方は悪戯っぽく
木屋 亞万

夕暮れが迫っていた
そして女は急いでいた
夜ノ森が始まってしまう、まもなく
日が沈む、まだ田園地帯から出られない

カラスがダーツのように空を飛び
夕日のど真ん中へ突き刺さる
雲は水面を流れる泡のように素早い
太陽はまだ海と距離を残している

スケアクロウが笑っている            スケアクロウは腹で話す
縫い付けたような口、継ぎ接ぎの歯にも見える   お口には糸でチャックがされている
夜ノ森ってどこにあるか知ってる?と尋ねたら   目にはボタンSince 2469の刻印
夜ノ森ってどこにあるか知ってる?        夜ノ森ってどこにあるか知ってる?
夜ノ森ってどこにあるか知ってる?        ししししししししいしいしっしいししし
問いを反復する                 口からは息のような笑い声しか漏れない

ヒステリックになりながらも女は走る
女はその白い帽子を手に持ち、さらに駆ける
おかしい、
このさきに海が見える
海は森ではない
右も左も前も後ろも、その道の先に海
全方位の海に夕日は沈んでいく
目が回りそうだ、スケアクロウは4体

かぁかぁかあかっかっかかかあ
カラスが鳴く、女の真上で停止している
見上げた女の目線の先にもう一筋の道       やややっややあややややややっやや
カラスは上空の道の先の海の上の夕日に      スケアクロウの口が裂けて、
直進していた、あぁ飛ぶんだと思う        首は据わらずに揺れ、掛け声を飛ばす

女は天頂の夕日へ直進していく
白いダーツになって、海を越えていく
夕日が海に口付けをする
そこから日没は加速する、危険だ、急げ

女は夕日を突き破った、抜けて
光の疎らな森へ突き刺さった
降り立った足の、10メートル先は夜

森へ差し込んでいた、光が薄れ、消えていく
夜が、闇が、訪れる               闇が森に差してきて、目覚めていく
夜の森が始まった                樹木に浸透していく
すすうっすうすぅすっすうすうぅうっうすう    スケアクロウの瞳の色だ
真っ黒なレースのカーテンが森を覆う       降り注ぐ墨色のオーロラ

装束が、もはや黒にしか見えない
いつの間にか黒いとんがり帽子を
目深にかぶっている女に
「夜ノ森ってどこにあるか知ってる?」と、
貴方は悪戯っぽく尋ねられる

それは疑問ではない
それは呪文である
貴方がこちらの世界へ来るための
ちょっとした夜の悪戯なのだ



自由詩 「夜ノ森ってどこにあるか知ってる?」と、貴方は悪戯っぽく Copyright 木屋 亞万 2008-12-06 02:22:06
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