voice, voice, voice
草野春心


  声、声、声の中に死んでゆくものがある。声
  声、声の中に生れくるものがある。ひとは命
  と呼ばれ、命と呼ぶ。そんな声の中に、死ん
  でゆくもの、生まれくるもの、在るものが、
  光。であって。



  声、声、声の中に立ち尽くすひとがいる。声
  声、声の中に歩みだすひとがいる。音は形を
  変えて、律、言葉となる。文字の渦の中に、
  生れくるもの、死んでゆくもの、在るものが
  影。であって。



  (ひとつ、朝。
   拓いてゆけば、
   露に濡れた
   草、土、青空。



  声、声、声の中に死んでゆくものがある。声
  声、声の中に生れくるものがある。ひとは命
  を守り、命に守られる。そんな声の中に、死
  んでゆくもの、生まれくるもの、在るものが
  光。であって。



  声、声、声の中に立ち尽くすひとがいる。声
  声、声の中に歩みだすひとがいる。ひとは命
  を奪い、命を奪われる。血のぬくみの中に、
  生れくるもの、死んでゆくもの、在るものが
  影。であって。



  (ふたつ、昼。
   叩いてみれば、
   陽に濡れた
   ひと、街、笑い声。



  声、声、声の中に死んでゆくものがある。声
  声、声の中に生れくるものがある。ひとは命
  であって、命ではない。そんな声の中に、死
  んでゆくもの、生まれくるもの、在るものが
  光。であって。



  声、声、声の中に立ち尽くすひとがいる。声
  声、声の中に歩みだすひとがいる。ひとは魂
  ではない。神々の本、その頁に刻まれる。生
  まれくるもの、死んでゆくもの、在るものが
  影。であって。



  (みっつ、夜。
   仰いでみれば、
   夜に濡れた
   星、月、花の色。



  生まれ、生きて、
  死んでゆくもの……
  また生まれ、生き、
  死んでゆくもの……



  僕は繰りかえし、
  いつか君へと還ってゆく
  君もまた繰りかえし、
  僕へと還ってゆく



  それが
  光ということ
  それがまた、
  影ということ
  燦燦と、世界
  世界は瞬いている
  聴こえてくるだろう?



  声、声、声の中に死んでゆくものがある。声
  声、声の中に生れくるものがある。僕は僕を
  呼ばれ、君を呼ぶ。満たされた名前の中に、
  死んでいるもの、生きているもの、在るもの
  ぜんぶ光。であって。



  声、声、声の中に立ち尽くすひとがいる。声
  声、声の中に歩みだすひとがいる。君は君を
  呼ばれ、僕を呼ぶ。あふれてゆく名前の中に
  生きているもの、死んでいるもの、在るもの
  ぜんぶ影。であって。



  (もうひとつ、朝。
   息を吸えば、
   光に濡れた
   ここ、ここ、こころ



 
  光も影も、影と光。湧き上がるところから、
  命だって生れている。言葉だって響いている
  だから、光も影も、影と光。消えゆく命から
  誰だって生まれている。誰だって響いている
  んで……



  さあ、
  歌え!
  祝え!
  僕はまた繰りかえし
  君へと還ってゆく



  君へと、
  還ってゆく。




自由詩 voice, voice, voice Copyright 草野春心 2008-12-04 11:42:46
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