パパの日曜日 ☆
atsuchan69

パテル・パトルム――
即ち、パパだ。

今日もパパは二日酔いで、
おまえたちはバレエを観に行ったけど
そんな日曜日の真昼間から
男が家にたった一人、瞑想に耽る

深潭たる無意識の下層へとつづく、
賑やかな市場と人だかりの仮想広場で
白い顔のピエロ――私――は逞しい雄牛を屠り、
その昔、漢氏(あやし)が伝えた
かつてキュロスの国で執り行なわれたという
怪しげな宗教の密儀を始めようとした

【が、】

高級開発者向けソフトだと思っていたら
なんと廉価/普及版、
「きいちの塗絵」みたいな儀式だった
――自分でも何を言っているのか
さっぱり判らない――

なんともチンプンカンプンな例えだ。

そこで可変長の不透明データバッファを
紫や緑のクレパスを使って塗りつぶし、
おそらく文字列として認識できる‥‥というか、
無理やりにアンパックを意味づけて処理。

むしろ事務処理系にふさわしい、
前置きの長いコボルで書かれたアルゴリズムを
バイナリ転送プロトコルで画像変換。
隠蔽された古文書に秘めたステゴオブジェクト、
――つまり人妻の淫らな濡れた唇、
やたらエッチな「誘うような流し目」や
温みのある胸のふくらみとかじゃなくて‥‥

その昔、ピタゴラス教団の人々が
心清く真摯に何かを学び、
偉大なるマアムーンの守った
禁断の魔術である――××××は、
いつしか基督教によって封じられてしまったが
おそらく全宇宙の生命よりも貴く
諸国の王たちが跪くほどの
どうしても言葉にできない、何か――。


       ※


そしてルネサンス‥‥

メディチ家のばらまいた偽薬のひとつ
啓蒙思想ってやつで革命を準備し、
やたら甘い「自由」という名のフレーズで唆しては
酒、博打、そして乱痴気騒ぎ等など
あえて人それぞれの耽溺の海へ
老若男女、身分を問わず
どうぞ勝手に沈んで行くのを奨励した

あれは花の街、フィレンツェ。

素晴らしく眺めのよい部屋から
小船の浮かぶ黄昏のアルノ川を見下せば、
あえて手段を選ばない男たちと
陽気で移り気な娘らの佇む川べりに
色鮮やかな愛欲の狂い咲く、
つかの間の情事の数々‥‥

赤茶色の更紗の窓掛けをゆらして
静やかな夕風のはこぶ、
薄闇に紛れた肌と肌の匂い
やがて怪奇なる中世イタリアを覆う
夜の帳はところどころ破れたが、
――それでも尚、
言葉にできない××××を隠すために
民衆への妄信は必要とされ、
協力しあう教皇庁との金融業務では
斯くも豪勢なメディチ家、また海の民へ
さらに莫大な収益をもたらした

【でも、】

日曜日のパパは、お腹が空いたので
家のちかくの大衆食堂で出前をたのんだ
しかし身体は天ぷら月見うどんを食べながらも、
心は今も時間軸の外側をさ迷っている

右の鼻からうどんを一本垂らし、
荒涼たる岩壁のつづく死の谷を越えて
そこは砂漠の幻影にも似た華やかなイスラム
青い民と呼ばれるトゥアレグの衣装、
すでに私はターバンを巻いていた。

おそらく爛漫な回教の教えでは、
天国では大勢の女とセックスができる
それにくらべると基督教の天国はつまらない
清らかで退屈な永遠が何処までも、
ただ果てしなくつづくだけだ

だから禁じられたオナニー少年よ、
ベルト爆弾で自爆せよ、、

殉教すれば天国で七十二人の処女が待っている! 

【こうして――】

言葉には決してできないが‥‥
ある日、奪う者たちは奇襲を行い
ナタンツの石窟は高熱の火焔で焼かれた
燃えさかる炎は彼らの理想世界までも黒く焼き焦がし
イスラムの仰圧された男どもは戦いを誓った

ああ、

なんてお粗末な台本なんだ
たった数日間の熱核戦争の後、
火を讃える国々は悉(ことごと)く壊滅し
生き残った者はごく僅かだった

砂漠こそが唯一、
我ら人類の逃れ場所だったのか?

――誰か、答えろ‥‥


       ※


駱駝と天幕と、焚き火。
案内されるまま山地の険しい道を辿って
やっと荒地の集落を眼にした
黄土(おうど)色のベルベル人の家々‥‥
どの家も日干し煉瓦でつくられている
私は、古びた家の扉をやっと開いた

「お帰りなさい」

刺青のある浅黒い顔の妻と、子らがそこにいた。

【そうだ、】

私は、もうパパなんかじゃない
――どうか「アビー」と呼んでおくれ

 希少な日本人
 荒地となった北米大陸、
 及び、東アジア、中東諸国、
 ロシアも含めた全欧州。

一切のしがらみは、既に滅びた
今日からは皆、ともにベルベル人だ


     ※


日本の妻と娘たち、
銀座久兵衛の鮨は美味かったか
お土産は買ってきたのか?
パパは身体だけソファーに置いておく
魂は、もう此処にない

一緒に過ごせなくて、とても残念だ。









自由詩 パパの日曜日 ☆ Copyright atsuchan69 2008-11-25 08:37:29
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