窓を叩くような
石川和広

生きてるのかな、この花
どうなんかな、生きてるのかな、この人

肩をゆすると花は俺を睨みかえしたが
恥ずかしそうに向こうに行ってしまった

向こうの車両もその先の車両も女性専用だというのに
その先もまたその先もずーっとその先になるとまた話は変わってくるけど

それはだいぶ先の話だからなさっきの花は寝ていたから
俺の頭に萎れてきたのでちょっと肩をこずいてしまった
そんなつもりじゃなかったのにあの花は行ってしまった

冬空が遠慮なさそうだ
どうしても恐くなってくる 窓から夕焼けが見えてしまう
暗い雲に夕焼けがなんか映画みたいに風雲急告げるみたいな

ちょっとつまんない喩えだけど

けど思い当たる恐い未来の出来事なんかなさそうだ
ケータイを見てみたがそんなことしたって仕方が
ないか

もう降りるべき駅が来てしまった
こんな暑いのにコートなんて着てられねえ
手に持つ 手に持ったらなんかみっともないが仕方ない

この駅からは夕焼けが見えなくなっている 
どうしても人の顔が目に焼きついて仕方がない
なんでだ 
それとか広告看板とかな
人の顔ってなんでこんなふうに見れば見るほど
じろじろ見ないほうがいいぜ知らない人だから
だけど俺だってなんだって知らないもの同士なんだぜ
なんでかしらんけど
あの娘も俺の親父も母も俺とはちがう存在やで
ただちがう姿をして遠くへ消えてしまいそうに思う

俺もそのようにかすかに

あの小さな男の子のぴょんぴょんはねるような足取りと
それと細くて白目が多い目と
帽子と帽子と小さい靴とアニメの絵が描いたある

それはさみしいとはちがう

階段を登って店に入ってなぜかスポーツ新聞を買う
この店員の胸には「もりさき」と書いてある
でもなぜか君が「もりさき」であることが嘘のように思える
実際はちがうねんでけどな
なんでか
なんでかやけど
そんなこといわんけどな



もりさきという人のこと
それを考えるのは暇人のすることなんだろうか

かけがえのないとよくいう

それを美しくもなく汚くもなく
とにかく感じるのは思ったより難しいぜ

いい男やいい女になれたとしても難しい

だけども
夕焼けとか車両の先の先のほうにある何かそれは恐い

かけがえのない?俺はこわいぜ
100万回かけがえのないと叫び叫ばれたとしても
たぶんこわいぜ
それはなぜだろうか
きわめてさみしいというか、その奥のほうから
ささやいている
窓を叩くような
揺れているような
静止しているけれども

自信ないけども
暗い夜道の親密さの方が恐くないぜ
眠って起きられないということもあるかもしれないけど

こわくない

だけどどっかでぷっつり道は切れているのだな

そんなこと具体的には考えきらんし

風の鳴り音とパソコンの起動音はなんかちがう
でも似ている

道が切れる先の先がなんであっても
その雲の妙な赤さ 人のいない 壁とかあるいは崖とか
人とか牛とか
宇宙とか
あと子供とか人参とか
声とかこえとか

目とか目先とか
気づかなかったこととか

いまあるもののすべては
道の途切れたところからきて
俺に恐さを与え
恐さの美しさを与えている気が今日はしてしまった


自由詩 窓を叩くような Copyright 石川和広 2008-11-18 17:05:01縦
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