あたたかいものを、ひとつ
小川 葉

 
セーターが
箪笥の中で冷たくなって
死んでいたので
あたためてあげようと
思った僕のからだも死んでいた

箪笥には
僕以外にも
死んでしまった
家族のセーターがきれいに
冷たくなったまま
きちんとたたまれていて
お墓のなかのような
感じがした

やがて誰かたちが
つぎつぎとやってきて
箪笥からセーターを取り出して
首をくぐらせると

あたらしい家族が
ひとつひとつ
蘇生するように
あたたかいものになっていった

かつて僕も
そのひとつだったように
たたまれた魂は
冬になるたびにそこを訪れた

知らない
ということは
そういうことだった
 


自由詩 あたたかいものを、ひとつ Copyright 小川 葉 2008-11-16 00:09:08
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