トマト
アンテ

                  「メリーゴーラウンド」 1

  トマト

四角いトマトを
作るようなものなのかもね

パイプ椅子からひょいと降り立って
彼女は器用に微笑んだ
制服のスカートが広がって
またもとにもどる
白いブラウスがまぶしい
下着の輪郭が透けて見える
視線を固定していたせいか
彼女がふと自分の胸元に目をやったので
慌てて窓に目を転じた

中学三年生 という
現象は
トマトの一生にたとえると
どのあたりにさしかかっているのだろう
なんていう悩みが無駄なことくらい
ぼくにだって判る
人生の終着点をぼくは知らない
難しい機械がぼくを生かしているなら
機械はぼくの一部なのだろうか
あるいはぼくは機械の一部で
生きてすらいないのかもしれない
でも
地震や洪水で命を落とす人だって
地球の一部だけれど
それでも人間なのだから
ぼくだって
生きていると言ってもおかしくないはずだ
黙り込んでいると
彼女は両手を複雑に動かして言った

目に見える四角い型枠だけが
形を決めているわけじゃないのに
そのせいにすれば安心なのね

両腕を高くあげて
背伸びをした彼女が
釣り糸にかかって
どこか遠い世界に連れ去られてしまいそうで
気がつくと
ぼくは彼女を抱きすくめていた
強く引っぱると
幸い釣り糸が切れて
彼女はベッドのうえにどさっと落ちる

それでも
ぼくという入れ物が
彼女の形を歪ませているのは事実だ

いつのまにか
外れてしまった呼吸器のチューブが
かすかに震動している
アラームランプが灯って
彼女があわててぼくの喉につなぎ直してくれる
こらーっ
ドアから顔だけだした看護婦さんの
目が笑っている

ぼくの耳もとで
彼女の唇がゆっくりと動いた
ぼくには聞き取れないのに
なんて言ったのか
自然に判った

トマトの形が丸だなんて乱暴よね
ひとつずつ違ってるのに

空気の塊がとつぜん肺からこみあげて
でも
喉に達するまえに
カニュレから放たれて呼吸器へ逃げていった
言葉になるはずだった空気
伝えなければならないはずの言葉
デジタルメータが
ぼくの呼吸にあわせて上下している
あれがぼくの
言葉
ならいいのに

ゆっくりと上半身を起こして
白い手をにぎりしめて
彼女は真っ直ぐにぼくを見る
じっと見ている


                 連詩「メリーゴーラウンド」 1



自由詩 トマト Copyright アンテ 2004-08-05 02:11:47
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メリーゴーラウンド