アブラゼミ(百蟲譜29)
佐々宝砂

そのひとが来ないことは
わかっていたけれど
約束からもう一年過ぎてることも
わかっていたけれど

盛大なアブラゼミの合唱の下
私は待っていた
夕暮れがきても
まだ蝉は鳴きやまず

私は待っていた
アブラゼミの雌のように
押し黙って

雄のなきさけぶ声を
無視するでなく応えるでなく
聴きながら



(未完詩集『百蟲譜』より)


自由詩 アブラゼミ(百蟲譜29) Copyright 佐々宝砂 2004-08-04 03:33:19
notebook Home 戻る  過去 未来
この文書は以下の文書グループに登録されています。
百蟲譜