空を切る
伊月りさ

海岸線の弧が抉る
砂浜に埋まっている
息を
ひきとったはずの感傷が濃度を上げて
臭う潮風を
追放したい

 繋がった手の
 甲の皮膚から
 繋がった肩に
 鎮座するわたしの
 頭は鳶を追っていた

幼少期に育てた海洋生物の
剥製の昔話を聞きながら見上げた
そこには、つぎはぎのわたしがいました

ああ
きみを解体したい、
網膜がまた我儘を言うのでわたしは
目蓋をおろした 青空の下で
ばらばらにしている、
きみを
再構成している、
夢をみた
からだろうか
眠れないまま夜が
過ぎていく
幼稚なエンジン音しかない国道が
遠い、

飛びたい、
わたしもそろそろ羽ばたくのをやめて ただ
 旋回をして
 急降下して
 微笑みはじめた電灯の行列を
 この爪で殺して
 静謐な海鳴りを一喝して
 砂粒の高度まで
上がっていきたい、

遠い、きみと、ひとりずつの
血肉を交換したくて 千切れた
言葉を交わした そこから
干涸びている
置き去られる
まえに
その海を吸い尽くしてしまえば わたしの
剥製は潤う、きっと
太陽に近い冷気のなかで
 振り返って、
 またたいて、
唾を飛ばして、
浸みこんだ、
下品な年月を追放する
羽を得る


自由詩 空を切る Copyright 伊月りさ 2008-11-01 10:49:39
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