ぬくめる
かんな

冷え切った肌寒い朝に
わたしは毛布にくるまっては
冷え切った足先を
ぬくめる

例えば死というような
ことばの冷たさは
毛布にくるめても
いつまでも温まらない

エアコンやヒーターは
電気代がかかるので我慢をして
服を着こんでは
そこに暖をもとめる

誰かが息をひきとる
という場面に
わたしは相対したことがない
それは生ぬるい事実のようにおもう

温かい麦茶を入れる
プレゼントにもらったポットで
湯をわかしてはひととき
喉をうるおす

冷たくなったことばを
使うことをことのほか怖れて
毛布の上からでしか
触れられない

テレビのチャンネルを回す
となんら変わりばえのないニュース
とともになんら変わりばえのないわたし
が映りだす

あたたかさを怖れない
それは少しばかり
正しさをはらんでいてそれでいて
やはり間違っているようにもおもう

マグカップに少し残った
もうぬるくなった麦茶を
いっきに流し込むと
生ぬるい事実が喉を通る

わたしはいつのまにか
あたたかいことば
という逃げ道をただ
作っていたのかもしれないけれど
 
毛布から抜け出すと
いつしか肌寒い朝が通り過ぎ
並べたことばたちが
陽の光であたたまりはじめる



自由詩 ぬくめる Copyright かんな 2008-10-30 13:30:57
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