ひとつ なまえ
木立 悟





ひとつのつづき
ひとつの雨
祈る者なく
響きは在る


青や灰の音
縦に巡る空
滴ひとつ
離れるうた


熱の歪みがさらに歪み
様々な濃さの黒のきれはし
羽のかたち
炎のかたちにつらなる夜


かがやくものが
首にしがみつき
ひとつうたを喰み
ひとつうたを喰む


これは雨のもの
これは川のもの
ひとつ息をつき
ひとつうたを喰む


霧のなかの穂
蜘蛛の巣の穂
手を振ること 手放すこと
やがて降る陽


とめどないためらい
凍える指の言い訳を
春を知らずに聴きつづけ
手のひらは微笑む鉱になる


器の傷まで
そそがれる雨
ふりむかぬ背に
置かれるかがやき


まぼろしが育てた夜に
たとえ会う前に別れても
名前は生まれ
ただ打ち寄せる


冬かもしれず 冬かもしれない
鏡のなかの 笑みと吹雪
帰る道なく
呼び声は在る




















自由詩 ひとつ なまえ Copyright 木立 悟 2008-10-28 22:44:16
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