飛んで墜ちて知って忘れて
高橋魚

青の濃淡の美しい空
左斜め上には太陽が輝く

その餌が一人の男を鳥にした

非日常の世界に我を忘れてそいつは三日間飛び続けた

四日目の夕方になりやっと地面に降り立ったそいつの足は 見事に衰えていた
ふくらはぎはだらしない格好で
膝も空もそいつを笑う

立つこともままならないそいつの前に
埃をかぶった杖が数本
物置の奥の奥に仕舞ったはずの杖が虹のような優しさでそいつを支えた


そいつは一晩中泣きじゃくった



歩けるようになってしばらくしたら
泣いたことも杖の存在も再び物置の奥に仕舞ってしまうのだろうけど


自由詩 飛んで墜ちて知って忘れて Copyright 高橋魚 2008-10-17 21:40:35
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