壁に咲く花
カンチェルスキス






 壁に咲く花を見落としても
 私は死なない
 

 夏は確かにあった
 冷蔵庫の置きすぎた麦茶からは
 想像もできない


 どこか
 ダムの底に消えた役場のように
 私に去来する
 撃ち落した虹


 ベランダから見える景色は
 コカコーラの看板が目立つ


 横断歩道を
 見知らぬ猫が
 渡りゆく
 ガードレールの下をくぐって
 街路樹の下へ隠れる
 それを私は
 何度も繰り返してきた
 誕生日の一日のように
 思う


 道路の脇を通り抜ける
 自転車の風を感じなくても
 私は死なないだろう


 私は踵を忘れたような歩き方で
 この道を歩いている
 壁に咲く花は
 見落として限りない


 私は死なないだろう
 壁に咲く花が
 枯れきったのを
 見過ごしても
 工事中の建築物は
 知らぬまに
 ぐんぐん育つ







自由詩 壁に咲く花 Copyright カンチェルスキス 2008-10-16 00:00:50
notebook Home 戻る