ドクターフィッシュ
小川 葉

 
仕事をもらった
知らない女の
角質を食べる仕事だった

女の足の中指は
親指より長かった
おれはその指のあたりを
重点的に食べたのだった

足の親指より
中指が長ければ
親より出世するという
迷信を聞いたことがあるからだった

家に帰った
少しばかりの給料を妻に渡した
ふと妻の鰭を見た
角質がそのすぐ裏の鱗に
びっしりたまっていた
おれはそれを食べなかった
愛しく思ったからだ

親鰭より短い
自分の中鰭を見ながら
おれは幸せにだけはなれたよと
とつぜんマグロの父と母に
電話したくなるのだった
 


自由詩 ドクターフィッシュ Copyright 小川 葉 2008-10-10 01:01:40
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