すかんぴん(大変貧しく、無一文で身に何もないさま)
吉田ぐんじょう
・
消費者金融の無人審査機の前で
背筋をこころもち曲げている女
どういう顔をしていたらいいか
分からないのだろう
真っ二つに分けた前髪の間からは
かきまぜたコーヒーに入れたミルク
みたいな渦巻き状の肌色が見える
それが顔である
首をかしげている
どうしてこんなところにいるのか
自問するようなポーズである
不思議に明るい部屋の中には
多重債務者にならないための
チェックリストが置いてあって
何の音もしない
あの世とこの世の境目のようだ
やがてお金が出てくると
女はぱっと明るい顔になった
玩具を与えられた子供のようである
マルイでは最新流行の服飾雑貨が
今も飛ぶように売れている
・
四百円あれば
わたしは幸せである
煙草と三十円の駄菓子二つ
もしくは牛丼が一杯食べられるから
なまのままの銀色硬貨を
ポケットに入れて
あとは何も持たずに靴を履く
古い型の洋服を着て
ぴかぴかの顔で
化粧品はもう使い切ってしまった
ポストには請求書が山のようにきている
一枚一枚丁寧に
口に入れて噛み締めてやる
すると しゃっくりがひとつでて
それでおしまい
なんてつまらない世の中だろう
ポケットに手を突っ込む
洗い上げたみたいな鮮やかな空に
他の人のうちの洗濯ものが
万国旗みたいにはためいている
・
ふらふら入ったデパートで
小鳥のような子どたちと
風船を持った着ぐるみが
赤い羽根募金の募集をしていた
すぐ入れに行こうと思って
エナメルのがまぐちから
十円取り出して にまにましていたら
突き飛ばされて
見ると親子連れだ
手に手に百円玉を持っている
手の中の銅貨と彼らをせわしく見比べる
あっちの方がいいのかな
多い方が喜ばれるのかな
でも がまぐちの中には十円銅貨ひとつきり
あとは正月のくじ引きであてた
小さい金の布袋像しか入っていない
しゅんとしているうちに
赤い羽根募金は帰り支度を始めた
うつむいて
十円銅貨を握りしめるわたしの横を
騒々しく笑う親子連れが通ってゆく
彼らのポケットからは
千円札の束がばさばさと
幾枚も幾枚もはみ出している
・
祖母のつくってくれたどてらを着て
コンビニへ行ったら
くすくすくす とみんなが笑う
お前らはわたしの祖母が
悪い眼を瞬かせてこれを
幾晩もかかって作ってくれたのを
知らないだろう
知らないくせに笑うな
煙草を一箱買って帰った
暗闇にもう 吐く息が白い
お前らにわかってたまるか
こんな上等の服一枚も持っていないくせに
笑うな