左ポケット
小川 葉

 
駅のホームで
乗り換えの汽車を待つ
少し味の濃い
月見そばを食べながら

かけそばにしようと思って
左ポケットを探したら
小銭が思ったより入ってたので

長い線路を
そばのようにすすり
千切れるたびに
僕は汽車を乗り換えてきた

食べ終えて小銭を払うと
立ち食いそば屋のおばさんは
左ポケットにしまった

とてもいい月だった
母と見た
そばのような時は
ときどき千切れるように
思い出となる

なあ、母さんよ
この故郷の家で僕は
暮らしてたんだ
覚えているかい、母さんよ

母さんは
左ポケットから小銭を出して
お小遣いだよと
僕にくれる
 


自由詩 左ポケット Copyright 小川 葉 2008-09-26 02:09:02
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