器と器
木立 悟






右まわりに触れられ
そこにいると知る
笛の音の房
こぼれる鈴の輪


細い光がたなびき
夜を分けるのではなく
既に分かれて在る夜を
ふいに消えた家々を描く


微動する熱
器のなかの
器のかけら
忘れられるのに十分な距離


鉄は火照り
鉄は冷める
鏡の裏に鳴る鏡
映るものの目をふちどる錆


渡しそこねて根づいた光
窓辺を手招く夜になる
仮面の門へ至る道のり
曲がり角に消えてゆく背


氷の花がつづいている
鏡の前の灯火を消す
器のかけらに水をそそぐ
あふれてもあふれても止まない傾き


周りだけが速くなり
熱の行方に咽を鳴らす
器の辺に映るつらなり
鉱物表にひらかれる冬


こぼれてはこぼれては根づく光
つぶやきつづける森になり
どこにも行けない羽に埋もれ
他の森より早く夜になる


花も茎も根もない草に
鳥が一羽眠っている
金に回る飛沫の風車
水音が作るけもの道


声と緑
岩と雷
欠けたしずくが戻りゆくさま
牙と牙の暗がりを揺らす


癒すもののない裂けめに冬は集まり
新しい冬を受け入れる
静かに静かにむらさきは降る
治らぬものにむらさきは降る


水が水をかきまぜる
器の底の器のかけら
ゆうるりと動き鳴り響き
夜のうつろを引き寄せる


森 鳥 鏡 かけら 手のひら
かけらかけらかけら 手のひら
水の目でもあり火でもあるもの
月と手のひらを貫いている


眠る姿 沈む姿に
悪戯な片目の笑みが重なり
横顔が うしろ姿がさらに重なり
灰色の器のなかでさざめいている


笛が巡り
鈴が巡る
たどりつかないものがたどりつき
器と器のはざまを巡る



















自由詩 器と器 Copyright 木立 悟 2008-09-24 17:50:05
notebook Home 戻る