毛を舐める猫
小川 葉

 
本家にはいつも
猫がいた
本家とよばれる所には
いつだって
猫がいるのだった

お盆とお正月に
本家に帰ると
やはり猫がいた
けれどもその猫は
おなじ猫ではなかった

お盆にいた猫は
秋に秋刀魚のにおいに釣られて
本家から出ていったし
お正月にいた猫は
春にたんぽぽの綿毛に釣られて
本家から出ていった

そうして
誰もいなくなった

本家にはいつも
長男がいる
それに嫁にいけずじまいの
姉妹も二階で暮らしてる

家族そろって
年老いていった
毛むくじゃらになって
猫みたいな顔をして
まるで猫が猫を飼いならして
家族だった人たちを
見送るように

猫が毛を舐めれば
その日はきまって雨だった
今日も空が雨ならば
あの猫たちは
今ごろ何を想うだろう
 


自由詩 毛を舐める猫 Copyright 小川 葉 2008-09-23 23:29:42
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