とどく
かんな

海にいくと思い出す
きっと記憶や思考は
脳になんかなくて
波の狭間でいつも揺れ動いているに
違いないのだ

幼い頃幼稚園で
真っ白な画用紙が配られると
クレヨンで
好きなものを好きなだけ
描いたものだった

それがいたずらがきであれ
それが表現であれ
それが自由の象徴であれ
なんでもよかった
よかったのだ

最近は泣く
泣く理由ばかり探して
捜して迷子になったり
真っ白なパソコン画面に
何を打ち込んでよいのか
わからないでいる

それは迷いです
とかそれは悲しみです
とかそれは寂しさです
といった風に
誰かが名前をつけてくれるなら
いっそ幸せにさえも
なれるのかもしれない

スニーカーの紐がほどけた
体重が一キロ減った
仕事でミスをした
親と口論になった
彼氏に別れを告げた
ああそうなんだ
表面的な出来事ならば
いくらでもある

わたしは
わたしは精一杯に内面的な
迷路に入り込んでは行き止まる
怖い
言葉が手の爪の先から
こぼれ落ちていくようで
何だか怖い

あなたのために
いやそうではなくて
明日のために
言える言葉を探す
わたしの
今日のいくらかの時間を
そのために使おう

明日晴れたなら
風にその言葉をさらしては
海に投げよう
ビンにはつめないけれど
そうやっていつしか
ありのままで
どこかの誰かの
思い出の波の一部に
なりますようにと





自由詩 とどく Copyright かんな 2008-09-23 21:23:35
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