こいさんや
捨て彦

こいさんや
もうちょい静かにでけへんか

そら、
お母ちゃんに買うてもうた チェーンソー
ごっつぅ気に入ってんのは
ようわかるんやけどな

あんまり振り回しよったら
しまいに壁、穴 あくで

お母ちゃんが大事にしとう
錦の絵ぇ
壊してまうで

錦の絵ぇ壊したら
また
あんたのお母ちゃん、激しい ためいき 出しはるで



かまへんて?
かまへんことないわ。



なぁ。もぅ えぇ加減にしとき
せやないと おっちゃん
三時からの競馬
聞かれへんやろ

なぁ。
もう
ええ加減にしときて。

そうや。
そろそろ ちびまるこはん はじまるで。
ちびまるこ 好きやろ こいさん
ちびまるこ はじまるで
ちびまるこ 見なあかんのちゃうか?
なあ。

ふん。
なんやて
今日と ちがう

今日やろ ちびまるこ
なに
ちびまるこは
日曜の、ふん。
午後からの、ふん。
六時からで、ふん。
おます。
やて。  ふん。


えらい ていねいに 答えてくれたなぁ


どうも
ハイ
ありがとう さんで。
ハイ
ありがとうさんで ございま。

ほんになぁ、
わて。
そない ていねいに答えてもろたら、ふん、
うれしいや ないかいな

なあ こいさん

なにが うれしい てな
こいさんが
こない ていねいに
ものしゃべれるようなった ゆうことが
わたしは ほんま うれしいわ
なぁ こいさん



***



せやな。
あんたは
なんでも よう わかっとるわ
いちいち わたしが ゆわんでもええわな。

わいとは
生まれも育ちも ちゃうもんな。
そりゃそうや
こいさんは ひとりで なんでも よう出来よる。

となりの とし坊 の風船が
庭の木ぃに 引っかかったときも
こいさんは チェーンソーで
枝を切り落として 取ってあげた。

わしが暑い暑いゆうてたら
涼しいやろ ゆうて
チェーンソー回して
刃の風を
ほっぺた の近くまで
もってきてくれた。

誰かが いじめられた ゆうたら
いつもは大事に お道具箱にいれとる それを
いっさん に引っ張りだして 走っていった。

わいはアホやから
芸事には めっぽう うといんやけど
なんや こいさん 前の日曜日
大きい紙 ひろげて
墨汁をチェーンソーの刃につけて
回しとりましたな。

となりで見てたら
墨が ぺんぺん 顔に はねて
あのときは えらい 難渋しましたわ。



それやしな



わたい 知ってまんねんで。
こいさん
寝るとき いっつも
大事なお道具箱
横に置いてまっしゃろ。

それ、置いとかなんだら
こいさん、寝られへんねんな。

知ってんのやで わたし。
ふふふ。



おうおう
そないに怒らんでもよろしが。
恥ずかしいんか。



わかったわかった わかりました

はいはい。


ほなら
わたしが退散しましょかいな。
向こうの お部屋行くわな。

こっちの部屋来たら あかんで。
チェーンソーの音 出したら
三時からの競馬
聞こえんようになりますからな。
これが わたいの 一番の楽しみなんやさかい。
よろしくお願いしますで。



ほら

よっこらしょっと。



これこれ。

そうやって 服の袖引っ張ってたら
わたい 向こうの部屋
行かりゃしまへんがな。











こいさん(こいとさん)・・・末のお嬢さん


自由詩 こいさんや Copyright 捨て彦 2004-07-28 22:24:55
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