月の光
yangjah


広い夜空を見上げる
戦いの拠点になった場所から
眺める秋夕の満月

ゆるやかに弧線をえがく
霞をかけていた雲も
どこかへ消えて
満月が高く高く輝く

月を見上げて
土の上に横たわる
少しだけ
生まれ直してみる

夜の木々の間を歩く
自由な感覚が戻るからだ

今朝起きたら
また自由は何処へ

曇り空なのに
オレンジ色の光を放つ窓辺に
近づいてみると
灯りを消し忘れたことに
裸のまんまで
気づく

ひとりになって
からだの声を聞く
身をよじって
声を発して

からだを解き放っても
まだ自由になれない時は
ことばを綴ってみる

からだの奥底から
ことばが這い上がり
ことばが空を舞い
口や
手や
眼から
こぼれ出してくるのを
みつめる

この感覚を
恋に頼るのはやめようと
思う

誰かに助けを求めなくても
すべてのモノが包み込んでくれる
その瞬間を待ってみる

少しだけ大人になって
少しだけ子どもに戻って

狂気をぬくもりに変えて

なぜ狂ったように泣きじゃくるのだろう
誰のどんな哀しみが
日々わたしにを通り過ぎてゆくのだろう

つかれた時は
いいかげんにしてほしいと叫びたくなる

それでも
少しだけ大人になって
少しだけ子どもに戻って

何かを
誰かを
包み込むのは
喜びだと知る

正午をすぎて
やっと食べ物を口にする
それでも
何かがしっくりこなくて
ピアノを弾く

ピアノを弾きながら歌う
からだが楽器になる
瞬間がつらなる

ドビュッシーの「月の光」を弾く

子どもの頃
ショパンの華やかさに惹かれる
中学生になった時
ドビュッシーの豊かさにうっとりする

今はもう指が動きを忘れてしまって
はじめの部分だけをくり返し弾く
最初の和音を発する瞬間
鍵盤から指を通って
からだいっぱいに甘い時空が
響き渡る

Lunatic
月は静かで狂う
その甘い光の調べを
全身に浴びる

誰かが
わたしのからだを使って
泣きたいのなら
わたしは
ただの楽器になればいい


自由詩 月の光 Copyright yangjah 2008-09-20 15:11:32
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