かえる
小原あき

ゆっくりと赤ん坊に返る
その人をわたしは知っている
夫の祖父だ
わたしを、「大きな女だ」と言った、祖父だ
いつも戦争の話をする、祖父だ
布団の上でお絵かきをしていた、祖父だ


初めて会った日も、やはり布団の上で
小さく背中を丸めて座っていた
だけど、顔つきは立派で
わたしの実の祖父とは違う年輪を感じた


格好良い、と思えたのは
その人が初めてかもしれない


その人が今、赤ん坊に返ろうとしている
白い清潔なベッドの上で
管から流れる母乳で、生かされている
立派な面影はなくなってしまった
それは、もしかしたら
なくなってしまったのではなくて
これから、なのかもしれない


そう思っている瞬間にも、その人は
ゆっくりと赤ん坊に返っていき
生まれる前に戻ろうとしている





自由詩 かえる Copyright 小原あき 2008-09-17 18:49:01
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