雨に打たれながらも立ちこむ釣り師
北村 守通

水面に
拡がるカァテン

 一つ
 二つ
 三つ

   割れる

俺は今
間にあって
どうしたものか
思案する
俺の脚は
久し振りの故郷の質感に
くつろいでいる
俺の腹は
しきりと帰りをうながしている
俺は
羊水には戻れない
人は
水中には戻れない


水面に
拡がるカァテン

  一つ
  二つ
  三つ

    はるか彼方で割れる
    二つ

    ついでに
    跳ねる

投げ込んだルアーに
雨が命中す
俺のタバコに
雨が命中す
鼻水と一緒に
唇こじ開け進入する
雨が進入する

俺の体内に
溜池に
畑に
落ち葉に
アスファルトに

俺たちは今
多分
羊水の中に戻ってきたのだ
だから
烏も
耕運機も
虫も
釣竿も
リールも
釣り糸も
ルアーも
やわらかな
夢を見ながら
眠っているのだ
無音の世界の
モノクロの世界の
不完全な
不連続な
羊水の中で
眠りを強いられているのだ

  けれども
  俺は
  戻れないのだ
  戻らないのだ
  生まれてきたことは選べなかったが
  生き方くらいは選べる範囲で選ぶのだ
  新たに
  生まれなおすことを
  選ばないことを選ぶのだ
  羊水の中で
  暴れまわって
  ルアーを
  キャストし続けてやるのだ
  羊水達を
  引っかき続けてやるのだ

    
    もやが水面を覆い
    次に俺を覆った
    そして山が青白い光を吐き
    俺は強制退去させられた

  








自由詩 雨に打たれながらも立ちこむ釣り師 Copyright 北村 守通 2008-09-16 01:30:40
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