どうしてお前は
そんな素敵に笑える?
眠りに落ちたら、私は
マリア、まだ眠れないのですか?
私がまたおとぎ話でも聞かせてあげましょうか。
そうだ、
この土地の昔の話をしましょう・・・
※ ※
緑の森に囲まれた、素敵な街がありました。
そこを護っている王様は、特別な瞳を持っていました。
その瞳は、動物や草花の表情がわかるという力を持っていました。
王様は花も草も動物もみんな好きでしたので、
花が悲しい顔をしていたら慰めてやり、
草が苦しそうな顔をしていたら水をあげ、
動物が楽しそうに飛び回っていたら王様も一緒になって飛び回りました。
そんな王様でしたが、街の人からは嫌われていました。
王様は草花や動物との接し方を知っていましたが、
人間とのふれあいのしかたを知りませんでした。
だから街の人に会うと、
「ふん、お前たちは何をしているんだ」
なんて、怒ったような言い方しか出来ませんでした。
本当は、
「何をしているんですか?」
と、そう言いたいのですが、人に会うと、
どうしてもふてくされた表情になってしまうのです。
あるとき王様は、街を囲む森で動物達と散歩をしていました。
そこを一人の少女が通りかかりました。
「王様、何をやっていらっしゃるのですか?」
王様は頑張って優しく言おうとしましたが、だめでした。
「散歩をしていただけだ」
「兎や仔鹿と一緒にですか?」
「そうだ。何が悪い」
「いいえ、とっても可愛らしいですね」
少年はにっこりと笑いました。
王様はもう羨ましくてたまらなくなりました。
「どうしてお前は、そんな素敵に笑える?」
少年は、王様の方を向いて言いました。
「王様こそ、動物達と歩いているとき、とっても素敵なお顔でしたよ」
王様はびっくりしてしまって、一目散に駆け出しました。
王様は、たくさん考えました。
これからどうやって人と話せばいいのか、分かった気がしたからです。
翌日、王様は街へ出掛けていきました。
老婆に会ったとき、王様は、
「こんにちは」
と言いました。
子供に会ったとき、王様は、
「こんにちは、たくさん遊んでおいで」
と、笑って声を掛けてやりました。
王様は、優しい王様と呼ばれるようになりました。
※ ※
あら、マリアは眠ってしまったのね。
今日のお話はここまでにして、私も森に行ってこようかしら。
眠りに落ちたら、私は
小さな頃に戻って、
また王様とお話をする