微炭酸
木屋 亞万

コップに耳をあててごらん
サイダーの歌声が聞こえてくるでしょう
宝石の鋭角が弾ける音
磨かれていく耳、頬、瞳

夏と炭酸は相性がいいから
海も花火も西瓜も朝顔も夕立も
炭酸と共存していてもおかしくない
親密さを感じる、夏が弾けていく

円形の側壁に泡のコロニー
ピカピカ小粒の二酸化炭素
砂糖水とはボトルの中だけ親密で
蓋が開くと同時に吹き出していく
蓄積された衝撃、揺らぎ、すれ違い

弾けた泡は二度と帰ってはこない
世界と混ざってもう戻らない
ボトルから出てコップから旅立って
別々の道、異なる世界へ歩み出す

一日も経てばボトルの炭酸は弾け終わる
儚い明度で輝いて冷蔵庫に消えた炭酸
取り残された砂糖水はバランスを失って
少し甘さを増したように思える

短命なものほど美しく
控えめなものほど鮮烈だ
コップの中の歌声が
何度でも夢は叶うから
と言っているようで

結末近付く巻末で
続編を匂わす微炭酸の産声
新しい風と出来立ての愛してる
さよならしても、またやってくる夏
同じ泡とは会えないけれど
同じ味に逢いにいきましょう


自由詩 微炭酸 Copyright 木屋 亞万 2008-09-14 00:54:31
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