青魚
小川 葉

 
とても幸せそうな家庭だった
それなのに
僕が帰ると言うと
君は泣きそうな顔をして
つまらなそうにうつむくのだった

いつか君も
僕の家に遊びに来た
垢にまみれた泥の顔をして
即席ラーメンのにおいをさせて
日が暮れても
帰ろうとしなかった

お気に入りのスーパーボールを
地面に叩きつけるたびに
かなしいほどそれらはよく弾むので
屋根までとどいては消えてしまう

いじめっこであり
いじめられっこでもあった
疎外された君を
誰もがひとつずつ忘れていった

まだ幼い青魚が
焼け焦げるにおいがする
早上がりの土曜日
ランドセルを背負ったまま
お昼のニュースで君の死を知った

棺桶の中に君がいた
ずっとそこにいると思っていた
帰ろうとして背をむけると
やはり君は泣きそうになって
つまらない顔をするので
僕はおかしくてわらいたくなった

とても幸せそうな家庭だった
それなのに
命とはこんなにも
不幸であるのがましだと思ったら
君がながさなかった涙の理由が
今ひとつずつわかる気がした
 


自由詩 青魚 Copyright 小川 葉 2008-09-13 02:26:23
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