純情球場
渡邉建志
オレは
ズボンを脱いでパンツも脱いで
レフトを守っている
どんなフライも捕ってみせる
さっきだってお腹からずさーって滑り込んで取ったじゃないか
ところで球場を見渡せば
カメラがいくつか撮っているのに気付く
ありゃぁここは甲子園じゃないか
パンツをずり上げズボンをずり上げ
全国のお茶の間に敬礼
そしたらこっちに飛んでくるフライが
全部取れなくなって
さっきだってランニングホームランを
10本も許しちゃったじゃないか
どうしてく
れるんだ
いやぁ甲子園に来れただけで
幸せじゃないか
子供にも
自慢でき
るじゃないか
センターが言ってニヤリと笑う
そうかもしれぬとオレは思い
いつもどおりやろうと思い
またパンツを下げた
全国のお茶の間よ
これがオレ様だ
一億三千万国民よ
謎の巨大キリン型国家よ
お腹からするすると滑り込んでは
ぱしぱしと取る
これをすらいでぃんぐきゃっち
といい
別の名をないすぷれい
ともいう
するとバッターボックスからバッター
走る走るオレに向かって
ドドッ
走る走る走る
右手にボール、外野席に投げ込むつもりだ
なんだこいつはなんなんだ
オレはとりあえず
ガッとタックル入れる
がっ
ドテッ
そしたら
ダッグアウトベンチから選手たち
走る走る走る
オレに向かって、16人
どど どど どど どど
どど どど どど どど
どど どどど どど どど どどど どど
どど どどど どど どどど
どどどど どどどど
どど どど っっ
どど どど っっっっ っ
どど どど っ
どど どど っ
どどどどどどどどどど どどどどどどどどどどど っっっ
どどどどどどどどどど どどどどどどどどどどど
走る走る走る走る
走る走る走る
パンツを脱いでいるオレは
無敵だ
何人かかっても同じことよ
と
満面に余裕の笑みを浮かべながら
もみくちゃにされるオレ
奴ら外野席にボール
投げる投げるボール投げる投げる
そして叫ぶ叫ぶ
「ホームラン!ホームラン!」
おいおいおいおい
これじゃ
玉入れじゃねえか!
オレはいろいろな場所を踏みつけられながら
必死に叫んでいた
気が遠くなりながら見た
外野席は沸いていた
気が遠くなりながら見た校旗は
六甲おろしに揺れていた