海辺の杭
水町綜助

海辺の杭だった
薄い色をした砂浜に
もうどこに打ち込まれたのか
砂に埋もれてしまって
分からない
どれだけの長さだったのか
その突き刺さった底が
砂に埋もれてしまって
分からない

錆を吹いている
肌をざらつかせて
赤いと言うけれど
見れば汚い色だ

それを防波堤に座って見下ろしている
潮風が吹いて
沖合いで「どう」という重い音が響いた
この鼓膜のように杭も揺れて
砂の一粒でも流れ落ちたろうか

打ち込まれた先がわかるとき
砂はいくつ落ちるか
どこまで錆びているか
何のために

漁師が波打ち際を歩いていた
左手にびくを提げて少し猫背で
時折身を折っては
何かを拾ってびくにしまいこんでいる
防波堤の上からは遠く
海の照り返しの鋭い白光のために
形を変える黒い影となって
よく見ることができない
何しろ海で
あの恒星の光もそこでは不定形だ

僕は白い波がなめらかに砂を塗り込めては
手放してゆくのを
揺れる視界の中歩いて
漁師に話しかけた

なにを採っているんですか

ごみだ

びくにたくさん詰め込まれていたものは打ち上げられた海藻だった
緑や赤っぽいものや金色にも見える透き通ったもの
すべて砂にまみれて
瑞々しさを失っていた

呼吸という言葉が脳裏に浮かび
それは波音に取って代わられた

どうどう
どうどうと
満ちていく海岸があって
そこに押し寄せる膨大な波がある
飲み込まれていく防波堤
と海辺の杭

あの杭は
何だか知っていますか

と漁師にたずねると
ゆびさした方角を振り返ることもなく
わからない
と言った



自由詩 海辺の杭 Copyright 水町綜助 2008-09-12 14:17:52
notebook Home 戻る  過去 未来