その犬
オイタル

道の真ん中で
前足に頭を乗せて死んでいる
薄目をあけて
スピードを落とす車のタイヤを見ている
右足が曲がってのびているが
気になるほどではない
話しかけると
少し顔を上げ、鳴いた

陽はしめやかに
東の空に懸かり
雲は
朱に染まるか

朝の電信柱が
道の両脇に
細い背を並べて参列する
手をつなぎあい
肩抱き合って嘆く電信柱
死亡事故抑止の看板が汚れる

夏を越えたばかりのひまわりも目を伏せる
まだその顔色を失ってはいないが
悲しげなことだ
「犬はどこへ行こうとしていたの」
「そしてこれから、どこへ行くの」
雀たちの
ささやきは止まない
犬は、黙って死んでいる

走り寄る車の下に
雀の列から逃げ遅れた一羽がもぐりこんだ


自由詩 その犬 Copyright オイタル 2008-09-07 20:40:58
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