オミナエシ
Etuji

掟は高い塀のむこうで眠っている
周辺を傲慢がはびころうとする

横断歩道で信号機はたがいに孤立し
おたがいの過去をたずねようとはしない

信号機は信号機の宿命のまま
明滅している

オミナエシが咲いている

窓のなかでは
後悔がいまも神の首を絞め続けている

存在は信号機のもとでゆれる空をみあげ
生まれくるときの約束を思い出せないでいる

オミナエシが咲いている

街のなかのショーウィンドーのなかに
故郷をみることはできなかった

それでもあなたと過ごした月日は
むだではなかったのだ
真実よりも
なによりも
あなたのいることが大切だった

まだ明るい街のうえに
名前をなくした月が銀色に輝いている

オミナエシが咲いている

信号機が青になり横断歩道を渡っていった人は
二度と帰ることはなかった
信号機は宿命のまま明滅している

掟はまだ眠っている
修羅が街路樹のかげで夜をまっている

やがて陽はしずむだろう
おおぜいの人が祭りのように
オミナエシのもとにあつまる
そのやさしさをたしかめると
みんな夜があけるまで
泣きつづける。


自由詩 オミナエシ Copyright Etuji 2008-09-03 22:18:23
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