オミナエシ
Etuji
掟は高い塀のむこうで眠っている
周辺を傲慢がはびころうとする
横断歩道で信号機はたがいに孤立し
おたがいの過去をたずねようとはしない
信号機は信号機の宿命のまま
明滅している
オミナエシが咲いている
窓のなかでは
後悔がいまも神の首を絞め続けている
存在は信号機のもとでゆれる空をみあげ
生まれくるときの約束を思い出せないでいる
オミナエシが咲いている
街のなかのショーウィンドーのなかに
故郷をみることはできなかった
それでもあなたと過ごした月日は
むだではなかったのだ
真実よりも
なによりも
あなたのいることが大切だった
まだ明るい街のうえに
名前をなくした月が銀色に輝いている
オミナエシが咲いている
信号機が青になり横断歩道を渡っていった人は
二度と帰ることはなかった
信号機は宿命のまま明滅している
掟はまだ眠っている
修羅が街路樹のかげで夜をまっている
やがて陽はしずむだろう
おおぜいの人が祭りのように
オミナエシのもとにあつまる
そのやさしさをたしかめると
みんな夜があけるまで
泣きつづける。