リフレイン ー十二歳の受難ー
渡 ひろこ

そんなこともあったっけ…
あれは息子と歩んだ道
四谷大塚の教本や模試の受験票が
ジグゾーパズルのように
断片となってパラパラこぼれていく


うまくつながらないのは
終わってしまったものだから
あのときの痛みさえも遠雷のよう




なつかしい疼き
反芻してゆっくりんでいるうちに
今 また ぷっくりと
赤紫の腫物が頭をもたげる




気づいたら薄皮一枚 かろうじて保つ
すでに重たげな実


思いきってひと刺ししたら
グシャッと返り血を浴びてしまうだろうか




ぬらぬらとたれる赤黒い液体が汚すのは
わたしだけでいいはずなのに
鉾先は そう いつも
やわらかいまっすぐな芽



中学受験。
敵は偏差値ではなく
幼い鍵爪



塾仲間から離れて一人バスに乗り
針のようなヒソヒソ話を避け
うつむく細い背中


娘から滴る見えない擦り傷の血に
あわてて吸い取り紙になって
覆ってやっても


パズルのピースが
再びつながっていく





自由詩 リフレイン ー十二歳の受難ー Copyright 渡 ひろこ 2008-09-03 20:25:44
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