いのちの綱 
服部 剛

「 よいしょぉ・・・! 」 

どしゃぶりの雨の中 
三人の男は 
橋の欄干にぶら下がり 
川へ落ちそうな独りの女を 
心を一つに、引き上げた。 

(ソノ時彼ハ、ジーンズノ腰縁ヲグィット握ッタ) 

飛び込む場所に置かれた女の傘が 
嵐に塗れた歩道に、転がっていた。 

唇から一筋の血を流した女は 
二人の男の間で肩を借り 
近くの庵へと連れられ 
ずぶ濡れて力の抜けた 
女をソファーに休ませる 

(ソノ後彼ハ、近クノ芭蕉稲荷ノ赤イ鳥居ヲ潜リ 
 在リシ日ノ俳人が愛デタ石ノ蛙ノジット構エル姿ニ
 両手ヲ合ワセル 

  「助ケテクレテ、アリガトウ・・・」         )

偉いのは、発見者でも 
皆に助けを求めて走った彼でもない 

九死に一生を得た女が 
最後の力を振り絞って 
橋の欄干にぶら下がった 
いのち網の両腕と 
たった十分の間に 
一つの命を助けようと 
心を一つに結集した 
皆の愛であった 





自由詩 いのちの綱  Copyright 服部 剛 2008-09-01 23:48:58
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