雨が降るとき、きみは
Utakata



1.

今までに
無くしたものごとをひとつずつ
丁寧に数え上げて見せては
笑い

今まさに
指先からほろほろと零れ
落ちた
それを
見送っては
泣く

かなしく
なれるようなすきまが
なければ
かなしくならなくていい
はずだった
のに



2.

耳元と唇のどちらに
くちづければいいのかを
知らないまま
互いを見つめることしか
できない
ままに

世界中の窓硝子が
流す涙に
貼り付けた
てのひらに絡みつく光
肘を伝って流れ
落ちるのを
他人事のように聞いた



3.

雨雲が
壊れた地平線から
ゆっくりと近づいてくるのを
じっと待っている
屋上
それを突っ切って
飛んでくるはずの青い
鳥を捉える
瞬間を

爪先立ちになって
見えたぶんの風景は
背伸びのぶんだけ
おとなになった
ときには
すでに失われている

傘なんて
持たなければよかった


4.

部屋中に浮遊する
くらげのひとつに頭をあずけた
みみもとに口をちかづけ
眠るように言う

くじらに
なりたいと願っていた
幼い記憶を
懸命に指で
さぐっては
眠りにつくまでの話を続ける
海の底ならこれ以上
濡れなくてもいいのだと
天井に浮かぶ無数の波紋を
描きながら
言う


5.

雨上がりの朝日が
風景を全て
漂白してゆく
原色の傘たちが
ヴェランダに咲いて
乾いた本のページが
ささやきをはじめる瞬間を
夢みて
青白い両手を
祈るように組んでは

ちいさく
かなしむ




自由詩 雨が降るとき、きみは Copyright Utakata 2008-09-01 12:12:24
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