会話
木立 悟





影が動きに遅れてゆく
遅れては遅れては重なりつづけ
ひとつの歩みのたびに咲き
ひとつの歩みのたびにたなびく



海の終わりからはじまる砂漠で
影と涙は会話していた
いなくなったもののことを
もう会えないもののことを

曇の去ったあとの空を
見つめるのはただ呪いだった
はりつめた青のなかを
金だけがゆるやかに巡っていた

ふたつの声のまわりを削り
雨の色が響いていた
夜は原のなかに居て
原のはばたく先を見ていた


まだはじまらない海の辺が
遠く鈍に灼けていた
どこまでも空は明るいのに
陽はどこにも見えなかった

地平に炎が浮かんでは消え
緑の花が浮かんでは消えた
砂の声にまぎれ
ふたつは進んだ

半透明の人々が唱っていた
まだ幼いかたちが手をつなぎ
空の片隅の湿り気を
じっと見つめつづけていた



岩陰のくちびるが潤い
ひとつの言葉を砂に植える
青と金の波打ち際を
会話の足跡はつづいてゆく















自由詩 会話 Copyright 木立 悟 2008-08-29 17:02:59
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