暗闇に指を伸ばして
知ろうとしている
指先が暖かく湿る
聞こえるのは、ピアノだけ

鳴いている
泣いている
うまく言えない
でも大好きだよ

ピアノのトリルのようなタッチが
囁きかける
鍵爪のような青白い月が
淡く指先を照らして

こぼれ落ちた３連符の中に
大好きという言葉を探す
わたしでいいの？
すり寄るアビシニアンを抱きしめそっと呟く

触れることもできないと
彷徨う指先が終に触れて
打たれた弦が鳴り止んでも
まだ指を抜くことができない

アラミスの香りが首筋をかすめて
つま弾くギターの弦が切れた
左手の薬指から指輪が抜けないと
戸惑う熱くて大きな手が重なる

今夜、
月は、月でしかなく、
星は、星でしかなく、
雨が降ればいいのにと、

雨上がりの夜気で星が滲んだ
ディミニッシュの響きが部屋に溶けて
甘い予感に酔いながら
崩落の序曲はせめてクレッシェンドで

渡　ひろこ／rabbitfighterによる連詩