雨傷
有邑空玖


雨降りの校庭には
死んだ生徒の霊が出るから
連れて行かれないように
傘は深く差して
声を出してはいけない


理科室の前の廊下は
いつにも増して薄暗く
硝子棚の奥で
骨になったあの子が笑っている


上手く大人に成れなかった
プラスティックの赤い指輪が
まだ薬指で光っている
君を待ち続けているうちに
曖昧に成ってゆくあたしの輪郭
「禁じられた遊び」が
途切れたままのオルゴール


低く垂れ込める雲の果てに
青空があるなんて嘘


雨の日に死んでしまった子供は
天国へ行けないんだよ。

無邪気な戯言ざれごとも確かな呪いで
図書室の窓から翔び立てないのは
寒い夏に死んだ少年
今も「銀河鉄道の夜」を繰り返し開いては
雨を憎んでいる


薄暗い廊下 薄暗い教室
チカチカと切れかけの蛍光灯
チョークの白 黒板の暗緑
シトシトといつまでも止まない雨


雨降りの校庭には
死んだ生徒の霊が出るから
連れて行かれないように
赤い指輪はポケットに仕舞って


幼い日の約束くらい
大人に成れば忘れられるなんて嘘


  

  初出:朗読イベント「花いちもんめ」にて朗読。

「雨傷」は、イノウエチハルの銅版画集「雨傷」より引用しました。


自由詩 雨傷 Copyright 有邑空玖 2004-07-24 21:18:48
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