狐の盆
リーフレイン

 「今年の本踊りは出てもいいよ」 おばあに言われた。おかんがそろいの浴衣を縫ってくれて、編み笠はまだだめやて。
去年まで大学へいっとって帰ってきいへんかったまささあが今年は男踊りの後ろかたを踊る。あたしはまだ四季踊りはできへん。四季踊りを前で踊れるようになったら、一緒に踊ってくれるとゆうてくれた。
白粉を塗って、紅ひいて、眉かいて
まだ幼い顔? もう女の顔? 口元をちょっとゆがめて、それはとっても醜いから、にっこり笑って、今度はしおらしさが恥ずかしい。
鏡なんかみいへんかったような顔にして、手ぬぐいで隠してしまった。
11時に会所の横丁で待っとてほしいってまささあがメールしてくれた。11時には輪踊りが終わるよって。
砂利の坂道を、ようならした草履で歩く。じゃっじゃっと音がする。「音がするうちあ、まだまだじゃの」おねえがゆうとった。
「この街のおなごしが綺麗なんは、おわら踊りのおかげじゃけ、あんたもおきばり。」てゆうとった。
ほんにそう。

汗びっしょになるまで踊って、11時。 見物客がようよう消え始めたころに、会所の横丁へ行った。

「りん」
「まささ、おかえり」
 
人ごみから離れるように歩きながら話を続けた。 人いきれとお囃子がとぎれ、かすかに虫の声が聞こえる。

「綺麗になったな、すっかりおわらのおなごしだ」
「でも、まだ編み笠かぶれんのんよ」
「そりゃ、あれはなあ」
「渡そうと思って持ってきてたんだ。これ」
「おみやげ?」
「そう、あててみ」
「・・・・・・わからへん 」
「狐のおめん」
「なんで?」
「忘れてしもうたかあ、りんが小ぼうんときにな、狐のお面かぶっておわら踊るゆうてだだこねてたんよ」
「ふふふ、そんな昔のことおぼえとらんって」
「これな、セルロイドじゃないんよ。 ほんまもんの紙を何枚も張り重ねてあるやつやで」
「見せてみせて」
「ほら、きれいやろ いいお顔しててなあ、 りんに似てるなと思って買ったんや」
「そやねえ、きれいなお顔やなあ」
「これで踊ってみいへんか?」
「ええの? なんか怒られへんかな・・・・・・」
「輪にはいらんで、ここで踊ったらええ、俺が唄うからさ」

         越中で立山 加賀では白山
              駿河の富士山 三国一だよ
「いい声やん」 
ちょと笑って、細紐のついたお面を顔にあてた。

         おわら踊りの 笠きてござれ
         忍ぶ夜道は オワラ 月明かり
         キタサノサ ドッコイサノサ



自由詩 狐の盆 Copyright リーフレイン 2008-08-25 20:33:10
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