小舟の女
星月冬灯


 私を忘れて下さい


 私は貴方の望む女には

 なれない


 貴方のことはとても

 深く深く愛している

 けれども


 ごめんなさいね


 今はそれだけしか

 言えないけど


 わかって欲しいなんて

 我が侭は言わない

 けれど

 これだけは知って欲しいの


 私は決して

 港にはなれない


 まるでこの身は

 小さな小さな

 小舟

 波に揺られながら

 風の吹くままに

 静かにたゆたって

 いるだけ


 岸に着きそうに

 なったら

 水平線に向かって

 少しづつ離れて

 決して地上には

 降り立てない

 そんな運命(さだめ)の

 女なの


 だからどうか

 さよならは

 言わないから


 ただ静かに

 別れましょ


 愛していたわ

 この身が焼かれても

 いいと思うぐらいに


 恋焦がれた

 優しい人


 ごめんなさいね


 私は決して

 港にはなれない


自由詩 小舟の女 Copyright 星月冬灯 2008-08-24 12:48:14
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