『水泳少女、遊泳セヨ!』
川村 透

学校の坂を
手をつないで駆け降りると
二人は、体ごと海になった。


作務衣のまま飛び込んで重く
泳ぎ疲れた僧侶は
制服を脱いで藍色の水着になった少女を
波打ち際に横たえる

少女は目を、閉じる
僧侶は魚のように上下する少女の胸で濡れた貝殻を砕く

学校から聞こえてくるのは潮騒ラジオ
≪サーフィン・USA≫耳にあてた貝殻、かゆくて
「ササエル」、から、「ツタエル」へ
始まる、魚の時間
銀の声が告げて、ホイッスル!


「水泳少女、遊泳セヨ!」


「水泳僧侶、遊泳セヨ!遊泳セヨ!」


胸元で声が蟹になるまで水をしたたかに飲んでむせかえる
太もものへびが、青々とした僧侶の頬を、ぢぢぢ、と噛む
ラムネの匂いとレモン水の記憶、少女と僧侶の甘く辛い唇
夜の回遊魚たちは銀色のイルカのように渦を描いて見せる
潮騒になった女は月の塩をなめる水死体のように清らかだ
僧侶の指が、無数の亀になって
少女の胸で、みずち、となって。

蟹のあぶくのひとつぶひとつぶに
映しだされる無数の蛇の子らの声
少女のくらげ色のびろうど透けて

藍色の僧侶は
女の夜の腕を花束のように抱いた。

美しく重く、
泳ぎ疲れた僧侶と少女は
波打ち際に横たわる
少女は目を、閉じたまま
僧侶は魚のように上下する少女の胸の


美しく重く、塩辛いレモンに歯をたてる


学校から聞こえてくるのは潮騒ラジオ
≪サーフィン・USA≫耳にあてた貝殻、かゆくて
「ササエル」、から、「ツタエル」へ
始まる、魚の時間
銀の声が告げて、ホイッスル!


「水泳少女、遊泳セヨ!」


「水泳僧侶、遊泳セヨ!遊泳セヨ!」



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【NOTE】2004/07/26   
塩辛いレモンを、噛む
潮騒ラジオが聞こえる。


自由詩 『水泳少女、遊泳セヨ!』 Copyright 川村 透 2004-07-23 22:53:22
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