リーチ
佐々木妖精

まったくもって
困ってしまったと
呟いた声はかき消される
待ち合わせしているというのに
未定と予定がごっつんこだ

確変が終わらない
最低の男だという意識が
同時に変動する
隣の老人に譲り
すぐにでも駆けつけたいのだが
だって確変じゃないか
時間つぶしのごくつぶし
到底そしりを免れない

確変が止まらない
電車内で席を譲るか迷った揚句
降りるはずじゃなかった駅で降りる男だ
迷っているうちに
終点を告げるアナウンスが流れてくれることを
祈っている
走り去る車窓から
目の前の老人がその席に
腰かけてくれるのを期待するように
うつむいて座っている

確変が終わったというのに
時短で引き戻して
ボーナスと遅刻が確定する
ああこうして
高熱が激アツと嘘でもつかなければ
私の失恋も確定するが
だって当たったじゃないか
譲れない時がある
葛藤が再始動しようと
正直であるのも譲れない


香るブラックに
ミルクを入れて飲む自由のように
遅刻をする自由があれば
確変でやめる自由もある
ここで引いたら負けなのだ
張っても引いても負けならば
張っても引いても勝ちなのだ

魚群のように
私は走り出す
間に合う確率を
勘定することなく


自由詩 リーチ Copyright 佐々木妖精 2008-08-19 00:20:37
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