美しき残像 ☆
atsuchan69

紺碧の輝きを放つ
カラスアゲハの翅が
百合の花のつよい匂いに紛れて
大きくひらくのを見た

静止した夏の庭。

そこに私がいる
分岐の先に、
意識が流れてゆくのも――
移ろう涼しげな日影とともに
無限の選択のひとつだったし

繰りかえされる褐色の日々は
まさに存在の輪郭をあからさまに焼き焦がし
それは百色眼鏡の変化にも似て
むしろ滅びてゆく身には心地よかった

声が、
ゆれる想いが‥‥

炊きたての飯と
薄く刻んだ紅生姜、
大根の味噌汁
鯵と南瓜の天麩羅。

空ろな記憶のまま
一日が燃えて

冷酒と月。

深みへと向かう
やがて死すべき者は、
恐るべき闇の境界をさまよい
充たされたこの光の在処とともに
唯一、想うことを止めない

黒い翅の蝶のように、
今も瞬きをつづけて





自由詩 美しき残像 ☆ Copyright atsuchan69 2008-08-16 20:25:26
notebook Home 戻る