牛
黒川排除 (oldsoup)
列につく羽ある係から鶉
時雨の色を尋ねられ戦慄く銀行前
舟作り海ひけらかしに発つおとつい
鳴きもせず竃のそばをうろつく山羊
産卵終え肩からだらんと垂れる鳥
染めたての布かぶせた陶磁器に汽笛
崖に合わせ破く写真のバルコニー
路上に滴る光 愛娘の異様な突出
微睡む庭の窓割りケイ光灯で照らす
海峡まで樽押せば樽だけが浮く
1
部屋の隅に水で空かく革紐かわし
風向きに短い戸は蝶番で回転
あわれ人波鳥らに啄みつくされて
雨浴びるしばしにスタートボタン押され
灯台・輩・に強い邪念 希有な彼の死
雲からの距離吹きすさぶ部位は肺
金切り声聞く周波数が合ったガチョウ
澄みゆけば城じつは池石を投げ揺るがす
火改め菱形宙より蝋を焼く
農夫の木型に今は熱帯魚が住む荒れ地
2
女将輝く川面の波紋そのままに
ビーム猿の頭上を過ぎ遺伝子に傷
樹木からの二本道羽根のようで飛び去る
消しゴムを触角で撫でる虫の聖
果皮を慰む婦人の横たわる裸
心臓から森取り出し足の数で密林
扉平らならば綻ぶ連れの肩
膝も突かずに牛の気持ちになる動転
大気にそそり立つ釘灰の昔を刺す
匙一杯の砂に申し訳程度にカラビナ
3
老い細長らえる女優逆さに鑿で打たれ
袖に響く螺旋階段と火柱
無痛示す茎真っ青に横たえる
代われるものなら観覧車から降りられない
空行は道であり無であり私用で通る
二本の紐垂れ下がる滝を望む前進
見知らぬ獣の爪に火が灯され灯籠は流れ
鎖が切れているどこかで窓が割れ錆の一端
ただひとつの瓦礫もつづらに階段跡地
回る車輪しょってやっとスカラベと互角
4
塩跳ねる地中に空想上の船
迷路の出口に影射し火種を踏む花嫁
仄かな雨後銃弾なめらかに溶け出し
溝を削りのぼせた眼の収縮に蛇
街の外れにある鳥のペダルが剥き出し
芽を摘む未亡人の横顔が一辺の長さ
抽斗をずらして指を置く綴り
ナで始まる不吉南京錠落ちる
影絵に四角くある共振装置への慕情
なくなった像を拝んだ跡まである
5
刺せば立つ家路で待てばバスが来る
賽振れば石となる河辺に食い入る
配布が始まってる駅でチョコレートを炙る
畑挟んだ家の一室まで干す包帯
双子宿す月 影を介して撫でる
打って砕く氷廊下を乱反射
牧師と密談して呻くという同類項
苦境にいて佇む模様の堰捻転
色ですら揺れている地平のワンピース
うつしみに来た水辺に村が浮き彫り
6
管を通る水冷蔵庫の今下抜けた
昼に面した明かりの店室外機三つ
小石靡くもう小鳥でも構わない空
土ならす日を浴びて花など咲くな
高熱の死角に触れる鉄の釜
目を閉じてかかとの文字を読み上げる
ちょうどこんな形だった厚紙謝意に焼き
菓子折り持って歩くには手が長すぎ炙る
枯れた木離れてもし婿がおればその分横たわる
下流の酢のコップ透明に通じる現世
7
光沢する婦人昼より明るい悲しみ
名の書かれた表紙に意図して燻るリス
にゅっと街灯突き出し分離帯の剥製
壊れた車が来た本当は明日来る迎え
翁火花発し歩く極逆流分子
骨からバラバラ鉛筆の鍵括弧を剥ぐ
裾持ち上げうたた寝に足浸す橋
泰山の動画へ水を取りにやる
耳を塞ぎ見る川の向こう岸這う雌
双躯光らせ草原を駆ける馬
8
ズックに詰めてまだ余る帰り道を踏む
公園抜けて園児等見る二段底の干魃
棍棒のより重きふくらみを持ち吸う
牢で漉す砂糖の所在を感触に試す
四つん這いに霞吸い寄せ門となる
受粉の兆しに刃を研ぐそこかしこが暗闇
邪念は槍手に取るまで紫の草
これより先メガホン朽ちて百足棲む
角だけ漏斗から出て馬の肢体の痙攣
手記破き男の口にあてがう穴
9
螺旋の熱が紫 気球からも見る
未来の山に匙打ち振るう医師の出土
体に馴染もうとする液体で我が尾の透き通る川
鉄老いてなお跳ね返す日の無音
たかだか足二本互い違い田の真ん中の青
手話を通じて雨を見る知らない町にもいる
不眠のまま寺でやつれて縄薙ぐ民
棍棒振るう逆に釘刺され光見えるまで
藪薄く風船になるほど集う
三輪車に照らされ花を束ねていたゴム
10