亜樹

あさ
台所に行くと
涼やかな甘い匂いがする
桃の季節だ
ダンボールの中で
熟した実が醗酵している。
触ると
産毛が密かに暖かい

桃を手にした私に
おかあさんが声をかける。
――ああ、だめよ
――○○○○がね、○○○でしょう?
――だから、気をつけないと

肝心なところが聞こえない
私はただ曖昧に微笑む。

――だからね
――××は、だめなのよ
――はやいとこ、×××××してしまいなさいな

ぼんやりとした静寂
大事なところは届かない
涼やかな甘い匂いに
私はただ凡庸に微笑む
手の中の桃が、ちくちくと暖かかった


自由詩Copyright 亜樹 2008-08-03 23:21:06
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